ヨガのアーサナの方法と効果

どのようにアーサナを行なえばよいのかまた、そのような方法を用いたときにどういうことが起こるのか、を説明するものです。てして懸命に努力してアーサーを行じるよう教えが、奇妙なことにパタンジャリは「力を抜くことによって最高の結果が得られる」と明確に述べています。
すなわち、、緊張をゆるめるようにアーサナを行ない、さらに、無辺なものへ精神を集中させるようにするのです。それと同時に、無辺なものの中の自分自身を認識するようにします。ただ緊張をゆるめるようにアーサナを行ないなさいと主張する人は多くいますが、アーサナをより効果的なものにするこのような指導をする人はめったにいません。神経生理学的見地から見てもこの方法は大変重要なので、パタンジャリの言葉と比較しながら解説していきましょう。パタンジャリは、自分の言うとおりアーサナを正しく行じるなら、「二つの対立物のあいだに衝突のない状況」がもたらされる、と主張しています。では、この二つの対立物とは何でしょうか。ヴィヤーサは注釈書の中でこれらの句を最初に取り上げ、アーサナは「身体の震え」すなわち身体の緊張りズムの障害を抑えることをめざしていると述べていますが、「対立」という言葉については、寒―熱や快不快といったインド哲学によく出てくるような一般的な説明しかしていません。しかしこれは、今問題にしている「身体の震え」とはまったく関係のないことです。とはいっても、アーサナを行なっても寒熱などに無関心でいられるようにはなれない、ということではありません。そうした能力は長期間の修行の末、制歳以上の段階になって得られるものなのです。これは精神生理学的な事実で、私たちの研究所でも数々の実験結果を得ています。しかしそうした結果は、アーサナだけで生じるものではありません。さらに、ここで問題になっている課題が「身体の震え」と取り組むものである以上、第三の句も「身体の震え」に大いに関係があるのは当然です。こうした観点から見てみるといかに「身体の震え」から解放されるのかについて、
パタンジャリ自身がすばらしい説明をしているのがわかります。彼の言葉を借りればブラーナのインパルスの衝突や不調和、相互交流の欠如によるものである、と明確に述べています。そして、アーサナを彼が示した方法で正しく行じれば、不調和が収まり、「身体の震え」が克服されるので、、神経、筋肉の緊張をはじめ、すべての生体組織が回復して調和のとれた働きをするようになる、と明言しています。
さて、神経インパルスには促進性と抑制性の二種類があります。緊張性インパルスも例外ではありません。筋肉の場合も、ひとつの関節を相反する方向に動かそうとする筋があり、そこにはいわゆる「相反神経支配」があります。これは、ある神経が支配する筋肉に収縮するようなインパルスを送るとき、反対側の筋肉を支配する神経はそれに比例してその筋肉にリラックスするよう、またそれを穏やかな方法で受け入れるようなインパルスを送る働きです。これによって関節の屈伸が可能になるのです。このような相反する機能は全身のあらゆる組織に見られ、心身のなめらかで調和のとれた働きを可能にしています。パタンジャリが「対立」という言葉で説明しようとしていたのは、このような体内の相反する機能のことで、彼の指示どおりに正しくアーサナを行じるなら、相反する機能のあいたに不調和はなくなり、心身の機能にふたたび調和が戻ってくるのです。このように、「対立」と葉は外界の「対立」だけでなく、体内の対立をも意味しているのです。
☆ヨガによる筋肉や神経の機能と姿勢について
では、それがどのように現代の神経生理学の知見と一致しているのでしょうか。シェリントン、マグナス、ド・クラインらは、中枢神経系にさまざまな障害をもつ動物や患者の勢反射の異常を分析・研究し、その結果、、神経、筋肉系の機能に関する数多くの新事実が明らかになりました。それは
1運動障害はおもに、通常は中枢神経系の上位中枢によって抑制される「原始的」で広範な姿勢およ
び運動パターンが、疾患によって制御されなくなることによるものである。
2筋肉はその協調活動パターンによって、「制御する筋肉」「維持する筋肉」「ゆるめる筋肉」という三つのグループに分けられ、こうしたバターンは系統発生的にみても個体発生的にみても(すなわち種ないし個体の進化という観点からみて)古い段階のものである。
3随意運動の大部分は自動的かつ無意識的に起きるが、これは、随意運動をともなう身体のさまざま
の部分での姿勢調整についてとりわけあてはまる。
4中枢神経系の統合下位中枢が姿勢保持や平衡をつかさどる。これらの統合中枢は、延髄、橋、中脳(以上の三つ及び間脳を合わせて脳幹という)、小脳、基底核にあり、これらが上位中枢|とりわけ大脳新皮質からの抑制的影響を受けなくなると、異常な姿勢反射が起こる。このとき姿勢は典型的なパターンを示し、影響下にあるすべての筋肉にときには全身に影響をおよぼす。
これら大脳新皮質下レベルで統合された一群の姿勢反射の結果起こる運動反応は、「基本運動」と呼ばれます。これらの反射は障害のない完全な人間の場合には観察されません。なぜなら、上位中枢の活動によって、これらの運動反応はより分化した複雑なパターンへと大きく変化するからです。個々の姿勢反射の研究から、中枢神経系に障害をもつ患者の動作を分析することが可能になり、一定の明確な反応パターンがいかにある単一の姿勢反射の支配を受けているかがわかるでしょう。それほど重症ではない場合は、典型的な緊張反射パターンの形跡だけが観察されます。このときその反射を適切に引き出すことはできませんが、受動的な運動をしているときの筋肉の抵抗を調べると、緊張の配分や程度の変化における影響がわかります。
姿勢反射が筋肉緊張の制御や配分に重要な役割をはたしている、ということはしっかり覚えておく必要があります。また、姿勢反射の大部分は、筋肉、関節、腰にある感覚終末器官や内耳迷路(これらは合わせて有受容器といいます)への刺激によって起こります。このことはすべての動物にあてはまりますが、人間の場合に注目すべきことは、進化の過程で立ったり歩いたりといった直立姿勢を維持するようになり、また、腕や手による複雑な動きをするようになったため、大脳新皮質が発達し、皮下の中の活動は大きく抑制されて、背景に退けられてしまったことです。ですから、サル目以下の動物は下心中ド(視床を含む)の上位に障害があっても、四本足で立っているときは筋肉の強みに保たれ、歩くことも可能ですが、サルや人間が同じ障害をもった場合は、異常な姿勢を余儀なくされて、歩くことがまったく不可能になります。

 

こうした観察から次のことが明らかになります。

1筋肉の緊張の程度やその配分の大部分は、姿勢
反射によって調節される。
2これらの姿勢反射は、おもに延髄、橋、小脳、「中脳、基底核によって統合される。
3これらの中枢によって統合される姿勢パターン
は、系統発生的にも個体発生的にも古い段階の「ものである。
4サル目以下の動物は、視床より上位に障害があっても、姿勢を正常に保って歩くことができる
が、同じ障害をもつサルや人間は歩けず、異常な姿勢をとる。これはサルや人間が大脳新皮質の活動に完全に依存していることをあらわしている。
以上の結論として、次のことがいえるでしょう。

1中枢神経系に障害をもたない完全に健康な人の場合、緊張リズムの障害は、おもに大賑新皮質などの上位中枢の誤った抑制作用によるものである。
2緊張リズムの調和を取り戻すには、上位中枢の下位姿勢統合中枢に対する抑制的制御をゆるめるようにする(ここで述べられている下位中枢、上位中枢は脳の中枢のみを指す。上位中枢は大脳新皮質にあり、下位中枢は大脳皮質下にある)。
3下位中枢を自由に働かせる姿勢反射は、通常、(中枢神経系のさまざまな障害に観察されるように)下位中枢が上位中枢の抑制的制御から解放されるときにあらわれる。人間にかぎっていえば、これらのパターンは「異常」で、系統発生的にも個体発生的にも古い段階のものである。