ヨガにかかわる神経などについて

ヨガの姿勢的反応とは?

意識できるような心の葛藤については、禁戒・勧戒、および「慈悲喜捨の念想」によって対処し、緊張が高まるのを避けることができます。しかし、無意識レベルの葛藤によって引き起こされた緊張に対してはどう対処すべきでしょうか。
原因が無意識の領域にあるため、その克服には当然長い時間がかかると考えられます。それでは、心身の破滅を防ぐにはどうしたらいいのでしょうか。ヨガはこの問題を、最終的には瞑想法によって克服しようとしますが、しかし一方では、現代の生理学的心理学でいわれる「姿勢反応系」(posturalsubstrate)という点からも取り組もうとしています。姿勢反応系とは、身体が普通の興奮状態にあるとき、どのような長期的な動作の変化にもともなってくる緊張運動を指しています。それは、あらゆる瞬間の身体の動きに影響を与えている神経――筋肉、すべての器官の背景となるもので、非常に多くの過程から成っており、その大部分はまだ漠然としかわかっていません。その中でもっともよくわかっているのは骨格筋緊張の過程です。ついで持続性内臓緊張、腺分泌異常の過程が比較的明らかになっています。これらの過程から生じる特定の緊張はすべて、一個人の行動|内的および外的な相動反射(後述)の特徴に一貫した類似性を与えているのです。
普通、姿勢反応系はどちらかというと流動的な状態にあり、その状態からさまざまなパターンを取りうるものです。しかし、進行性の病気や長引く心の抑圧などの持続性ストレスによって心身のバランスがくずれると、人はしだいに刺激に対して決まりきった硬直した反応を示すようになります。フリーマン博士がその著書『生理学的心理学』(PlustrologicalPsycleology)の中で述べているように、とりわけ「ある持続的で動機のある刺激が、ちゃんと発散されないとき」、姿勢反応系が永久的に固定されてしまうこともあります。このようなタイプの姿勢の固定によって、「多くの精神病患者が現実との接触を失っている状態)を説明することができる」ともフリーマン博士は指摘しています。
このように姿勢反応系は、外的および内的(器質的)行動を決定する上で非常に重要な意味をもっているのです。人間の行動パターンが一定の方向に固定してしまうと、決まりきったかたちの内受容的緊張の。ターンが優位となり、外受容的相動」の影響はほとんどなくなります。そうなると、外からどのように説得しても、その人の人生観を変えることはできなくなってしまうでしょう。

反射神経について

暑さを感じれば涼しい場所を探したり、不快な匂いを感じればそれを避けるように動くというように、私たちは外部・内部の環境の変化を感じとり、それに対して何らかの反応をします。この刺激応答による運動の発現は神経系により制御されています。単純な反射運動から、大脳皮質の高次の機能が関与する随意的な運動まで、神経、筋肉の複雑なメカニズムが階層的に働いています。アーサナ(ヨガのポーズ)などの行法のメカニズムを考えるとき、まず二通りの反射様式を理解する必要があります。
身体の反射様式には「相動的」(phasic)なもの(ここでは相動反射と呼びます)と、「緊張性」(tonic)(緊張反射と呼びます)のものがあります。相反射とは、ある刺激が加わると、それを排除するために局部的に起こる急速な反射です。この反射の全過程はきわめて短時間のうちに行なわれ、生じてはすぐに消えていきます。一方、緊張反射は、筋肉の緊張や姿勢の保持・調節などの持続的な反身別反身はおもに姿勢に関係しているため、姿勢反射ともいわれますが、姿勢の調節にはその他に平衡反射も数多く関わっているので、この表現は適切とはいえません)。ここで大切なのは、相反射は運動に関与しており、緊張反射よりも目につきやすいものですが、相動反射の基礎を形成しているのは実際には緊張反射である、ということです。つまり、相動反射では瞬間的な刺激を排除するために一時的な身体の調整が行なわれるのですが、緊張反射は、より持続的で拡散的なタイプの調整で、相反射の土台としての役割をはたすことによって、身体の活動に一定の継続性をもたらします。この二つの反射は相容れない反射なのか、それともひとつの連続的な段階における両極端の状態なのか、まだ完全にはわかっていません。しかし、緊張反射、相動反射はそれぞれ受容器(刺激を受け取り、神経インパルスに置き換える)、調整体(受容器で生じた興奮を統合・変換し効果器に伝える。求心性神経、遠心性神経、中枢神経など)、効果器(神経インパルスを受けて応答運動を起こす末梢組織。骨格筋など)を介して、異なる反射をすることがわかっています。効果器はこの二つの反射にいくぶん共通しています。相動反射は錐体路系(延髄の錐体を通過する運動神経路で、意識的な骨格筋の運動をつかさどる)、緊張反射は錐体外路系(錐体を通過しない運動神経路で、不確実な姿勢の調整や筋肉の緊張など、無意識的な骨格筋の働きをつかさどる)に支配されます。筋肉の緊張のバランスに関係があるのは、小脳、被蓋、視床、線条体です。これらは姿勢反射の制御においても同様の役割をはたしています。シェリントン(英国の生理学者、一八五七~一九五二)、ボニエ(フランスの臨床医、一八六二~一九一八)
らが指指しているように、この二種類の反応に関わる受容器もそれぞれ異なっています。これらは解剖学的な位置の違い、また刺賞の発生原の違いによって分類されます。
受容器は、おおまかに1外受容器、2内受容器の二つに分けられます。外受容器は身体の表面にあり、外界からの刺激を受け取ります。外受容器には目、耳、鼻、口、皮膚などの感覚終末器官が含まれます。一方、内受容器は身体の組織の深部にあって、組織自身の働きかけによる刺激、つまり体内からの刺激を受け取ります。内受容器には筋肉、腱、関節、内臓、三半規管内の感覚終末器官が含まれます。
*目、耳、鼻はときどき「遠隔受容器」と呼ばれ、「外受容器」という用語は皮膚に対してのみ用いられることがあり
ます。また、のちに「固有受容器」や「固有受容」といった用語に触れる場合のことを考えて、ここでその分類をしておくと、固有受容器は筋肉、腱、迷路の感覚終末器官に対して用いられる用語です。「内受容器」は内臓の感覚終末器官に対してのみ用いられることもありますが、前者のおおまかな分類のほうがより便利です。
普通、外受容器が相動反射を引き起こしているあいだ、内受容器は緊張反射を高めます。この二種類の受容器が特定の反射パターンに対して、どのように相互影響をおよぼすかが非常に重要です。緊張内受容器の調整は相動外受容器の調整の前に起こり、後者を持続させます。外受容器からのインパルスは、運動単位「運動神経細胞(運動ニューロン)と、それに支配される骨格筋線維」に影響をおよほしますが、その運動単位は、すでに関連のある筋肉から生じてきた内受容器からのインハルス。下にあるのです。内受容器は、筋肉を支配する運動神経と密接につながっています肉行動」という場合、相動外受容性のインパルスだけが目に見える反応を引き起こし、その反応は、寺間、位相、方向において優勢である固有受容性の隠れた影響と調和したかたちで起こります。つまり、反応の最終的な影響は緊張性インパルスによって作られた背景にしたがって変化するのです。
外受容器からのインパルス(外受容性インパルス)は、明らかに内受容器からのインバルス(内受容性インパルス)より強く、また、外界の刺激を受けるのとほとんど同時に起こるので、運動神経の領域においてはどんなに瞬間的でも「フルに放電」することができます。しかし、これは内受容器の助けなしには起こりません。したがって筋肉がその緊張を失うと、外受容性インパルスは反応をほとんど、あるいはまったく引き起こさなくなります。輪ゴムを引っ張ると、どんなに小さな圧力に対しても力強く反応しますが、引っ張られていないときは圧力に対してほとんど反応しません。筋肉もそれと同様です。
内受容性インパルスは、たんに外受容性インパルスを維持するだけでなく、抑制して、その効力を決定します。ですから、筋肉が興奮性ではなく抑制性の内受容性インパルスの支配を受けると、外受容性インパルスは何の反応も引き起こさなくなります。
内受容器が相動反射に与えるこうした影響は、延髄レベルで統合される反射においていっそうはっきり見られます。心臓の鼓動や呼吸は、おもに内受容性の緊張反射によって制御されています。外受容性インパルスは、非常に限られた範囲でしか生命活動に影響をおよぼしていません。突然顔に冷たい水がかかると、わずかのあいだ息が止まることがありますが、それはほんの一瞬のことです。痛みに対する反射についても同じことがいえます。
痛みが予想されている場合、外受容性インパルスは、痛みが予想されていないときとは異なる反射準備状態にある神経組織につながります。ですから、そこには典型的な「飛び上がるような驚き」は起こりません。
しかし、この相動反射と緊張反射の二つの反射系は相互に関係があると考えられ、それぞれはひとつの統合された反射の一部分を形成しています。行動のどんな一断面も相動反射によって構成され、相動反射は身体の他の部分における緊張反射によって支持され、維持されます。緊張反射の準備は発展して相動反射になり、相動反射の残りの部分は緊張反射を準備するのに役立つと考えられます。この二つの反射は最初と最後に、大脳皮質の運動野、脊髄で出会います。他の場所では、一方の反射の影響がもう一方の反射に選択的に働きかけられないため、出会うことはありません。外界からのたえまない刺激によって起こるさまざまな反射は、次の事実にもとづいてのみ説明できます。すなわち、各相動反射は厳密には相動的なものではなくて、緊張反射に基礎をおくものである、という事実です。

ヨガ行法ってどんなことをするの?

ヨガ行法の見地からいうと、私たちにいっそう関わりがあるのは、緊張反射のさらに進んだ面と、それによる行動の決定因子としての重要性をそなえた「姿勢反応系」の形成です。どんな障害を治療するにも、前述したように、緊張性―内受容系の点からその人の本質的な姿勢反応系と耳組まなければなりません。激しい体操や運動などによる筋肉の相動的な収縮は、内受容系にはほとんど影響をもたらしません。
緊張性収縮のほうがはるかにエネルギーの節約になるということなるということに注目すべきです。事実、動作中に相動反射を支持する姿勢反応系が適切な状態になければ、高い代謝が必要となります。とりわけ心身の緊張をともなう神経症の場合にはこのことがあてはまるので、神経症患者はつねに疲労感を訴えます。このとき、このような慢性疾患においてホメオスタシスを維持するために利用される唯一の反応が、緊張性収縮です。健康な人の場合でも、緊張反射の変化はかなりゆっくりとしたものです。反射はまったく鈍く、徐々に最大の有効性に達し、ゆっくりと低下していきます。ですから、最初にこの緊張反射という「共通基盤」に注意を向けることは、健康な人に対しても有益であるといえましょう。以上、生体の精神生理学的行動において緊張系がはたす重要な役割について述べてきましたが、姿勢の維持・制御に関わる反射はその他にもあり、とりわけ局在性平衡反応、体節性平衡反応、汎在性平衡反応は無視できません(ここでは、これらの説明は省きます)。筋肉の緊張の変化を記録する固有受容性の神経、筋紡錘、神経ー腿紡錘のことはさておき、目、耳(内耳迷路も含む)、また皮膚もある程度は、非常に複雑な姿勢の反射メカニズムにおいて役割をはたしています。これらの受容器からのインパルスは中枢神経系に伝わって調整されます。この過程に重要な役割をはたしているのは、大脳皮質、小脳、赤校および前庭神経校です。この複雑なメカニズムについては、次頁の図をごらんください。
このようにヨガ行法は内受容性緊張反射に直接取り組み、規則正しい実践によって心理的にも生理的にも行動全体に有識な景言を与えていきます。では、ヨガ行法は緊張反射という「共通基盤」にどのようにとりくんでいくのでしょうか。

そのために用いられる行法は、大きく1アーサナ、2ムドラーとバンダ、3調気法の三つに分けられます。各行法の範囲、領域は広く変化に富んでいます。したがって、これらの行法を現代科学の観点から手短に分析することは非常に困難です。ここでは、そのおおまかな原理と、これらの行法が病気の治療において正しく用いられた場合に占める特別な位置について考えていきます。