ヨガの姿勢について

よい姿勢とは?

姿勢とは、「筋肉活動のあいだ何かに支えられて、あるいは、同時に働く複数の筋肉の協調作用によって、身体がとる構えであり、それによっては安定性を保ち、どのような動きにとっても不可欠の基盤を形成するもの、と定義できるでしょう。この基盤はたえずさまざまなタイプの運動に適応されています。いわば、いろいろな運動はこの基盤の上に重ね合わされているのです。
効率的な姿勢とは、ある行為の目的をもっとも効率よく達成するための基本的背景となり、その維持や調整に不必要な筋力を要しないような姿勢のことをいいます。この効率的な姿勢は、生来のメカニズムが健全で、筋肉に適切な「緊張」が存在すれば、ごく自然に培われるものです。
姿勢は、おおまかに。受動的姿勢との能動的姿勢に分類され、能動的姿勢はさらに、1静的姿勢、2動的姿勢に分けられます。アーサナはすべて、これらの種類に分類されます。
受動的姿勢これは一般に休息したり眠るときにとる姿勢です。この姿勢では、生命の維持に必要な呼吸や血液循環などにともなう筋肉運動を除いて、一般にすべての筋肉が弛緩します。呼吸や血液循環などの働きも最小限に低下します。
この分類に入るアーサナには、屍のポーズ、ワニのポーズで、道のポーズ(うつ伏せに寝て、手足をまっすぐ伸ばす)などがあり、いずれもリラックスのために用いられます。リラクセーションはそれ自体がひとつの技術であるといえます。
能動的姿勢これには静的姿勢と動的姿勢がありますが、いずれも多くの筋肉の統合的な働きによって保持されます。
1静的姿勢内部で働く筋肉が関節を固定し、重力などの力に対して身体の平衡状態を保つため
少静的に働くことによって、一定時間安定して保持される姿勢です。いくつかの一般的なアーサナが静的姿勢に属します。瞑想のためのアーサナも静的姿勢です。これらのアーサナはなかばリラックスした状態でたやすく保持できますが、それは両足の位置を調節することによって広い
基底部が得られ、安定するからです。
2動的姿勢姿勢パターンがつねに変化し、その動作の要求を満たすように調整される姿勢です。
身体の平衡状態を保つため、筋肉が重力などの力に対してつねに働きます。心身を調整するための矯正的アーサナ(訳注心身の調整として行なわれるアーサナはいずれも矯正的といえる)や、舗のポーズ、コブラのポーズ、バッタのポーズなどの一般的なアーサナが動的姿勢に属します。この動的姿勢と、動作を反復する活発で動的な運動との相違点は、これらのアーサナの場合は、いくぶん動きがあるものの、それはゆっくりした持続的な動作で、動きそのものの活動性よりも身体の、神社前内〉という姿勢反応系がゆっくり変化していくことに注意が払われているといえます。

アーサナのメカニズム

アーサナの考え方「筋肉」どの能動的姿勢でも、姿勢のパターンによって、またはその姿勢をとる個人の身体的特徴によって、筋肉の強さと配分は変化します。
この姿勢でもっともよく使われる筋肉は、通常、重力に抗して直立の姿勢を維持するために使われる筋肉です。この筋肉は「抗重力筋」といい、関節に関しては普通、四肢をまっすぐに伸ばすなどの伸展に使われます。人間の骨格筋には、遅筋と速筋の二種類があります。遅筋は、豊富なエネルギー源である赤い色のミオグロビン(ヘモグロビンに類似した筋肉内にある酸素運搬たんぱく)を多く含むので、赤筋とも呼ばれます。遅筋は収縮速度が遅く、発揮張力も小さいが、疲労しにくいという特徴を持っています。一方、
速筋はミオグロビンが少なくエネルギーをすぐ消費するので、疲労がはやく、収縮速度もはやく、
通常の休息状態に弛緩します。これら二種類の
縮時にはすみやかに最高度の緊張に達し、すみやかに通常の休息状態に弛緩します筋繊維は、身体各部分のそれぞれの筋肉内に一定の割合で混じり合って存在しています。伸筋(通常四肢を伸ばすときに使われ、重力に抗して平衡を長時間維持し、姿勢を保つ)はおもに遅筋で構成されます。
したがって、伸筋は疲労することなく、かなり長時間の収縮に耐えることができます。最近では屋方と速筋の特徴を持った中間筋の存在も明らかにされています。
「神経支配」一般に、安定した姿勢では、神経、筋肉〉の働きも最小だと考えられていますが、それはまちがいです。このことについては、アーサナの項のシェリントンの引用を参照してください。「姿勢の維持や調節は、いくつかの、神経、筋肉」の自動的なすばらしい協調作用によって行なわれています。それに関わるさまざまな筋肉群は、非常に複雑な反射活動システムによって制御されています。ここがアーサナのメカニズムを理解するうえでもっとも重要なポイントです。「反射行動」は、アーサナだけでなく他のヨガ行法や、また感情の働きを理解するのにも重要な概念です。実際、ヨガ行法についての私たちの議論の中では、「緊張反射」と呼ばれるものが話題になってきます。というのも、それはエネルギーの節約になるばかりでなく、人間の行動に精神生学的に深いかかわりをもっているからです。
筋肉の緊張を誦持することは、筋肉の効率的な機能にとって非常に重要です。運動をなめらかに遂ずいたいに、肉は相収語への一定の準備状態または待機状態になくてはなりません。古代の人々はこいこいの歴にたとえて、「感がじゅうぶんに張られているときにはうまく的を射抜くこともでいいいいいいいいい人は的まで届かず、逆に強く張りすぎると的を射越してしまう」といっています。
「神経が緊張している」状態を「心の糸が張りつめている」と表現することがあるのは周知のとおりです。しかしその状態では、反射活動を高める一方で、筋肉の一定の収縮を維持するためにかなり余分なエネルギーを使ってしまいます。その結果、疲れやすくなり、リラックスしたり確眠をとったりしてもほんとうの休養にはならなくなります。
ヴァイオリンやヴィーナーでたとえてみましょう。ヴァイオリンやヴィーナーは、その歴の調子が正しく合ったとき、初めてよい音楽が奏でられます。同様に人間の心身も、相対する傾向がダイナミックに調節されてバランスが保たれているとき、真に健康であるといえるのです(パタンジャリの「対
立状況」)。対立の背後には調和が隠れているのに、ふだんそれは見すごされています。ヘラクレイトス(紀元前五世紀頃のギリシアの哲学者)も言っています。「一見対立しているようなものが実は調和していることに人は気づかない。それは己と竪夢のように、対立する緊張が調節されているのである」と。アーサナも、またヨガも、対立状況に調和を見出そうとするものなのです。
静止している筋肉の緊張の質は、軽く触れることによっても、あるいはもっとよい方法としては、受動的に引き伸ばされたときの筋肉内の抵抗力を調べることよって、臨床的に有かります。
この抵抗力が高まると「緊張亢進」という状態になり、逆に抵抗力が弱まったり失われたりすると「緊張低下」という状態になります。
普通、筋肉ではバランスのとれた緊張が維持され、この筋肉は相動運動や姿勢活動に必要な調整をうながします。このバランスが病気で乱されると、さまざまな徴候や症状があらわれ、おもに付随運動というかたちで、一定の正常な運動がなくなったり、深部の反射の障害とともに、痙性、硬直、緊張低下、弛緩性などの異常な状態があらわれるのです。「その他の筋肉緊張障害はたいてい、病気の過程とは別に毎日の生活における心身のストレスによって、全身の伸展反射メカニズムが高まったり弱まったりして引き起こされます。感情や精神状態が神経系全体に深く影響をおよぼし、緊張反射によって私たちの姿勢に反映されるのです。喜びや幸福や自信が身体を刺激して機敏な姿勢をもたらすのはそのためです。その姿勢では「伸長」が優勢になって、身体をまっすぐに伸ばし、胸を広げ、頭を「高く」保持しています。反対に、悲しみ、精神的葛藤、劣等感のある場合は、頭は垂れ、背中は前屈し、胸はくぼむ格好になります。怒ると、身体は目一杯伸ばされますが、筋肉の緊張は阻害され、震えが大きくなります。恐れはさらにこの障害を増し、よろめきをもたらします。極度の恐怖にあうと、筋肉の緊張はまったく失われ、その結果ばったりと倒れることさえあります。
このように、精神状態は一時的にも永続的にも身体の姿勢に影響を与えます。では、この逆のことも起こりうるのでしょうか。つまり、精神状態に影響を与えるように、意識して身体の姿勢をとることはできないのでしょうか。「緊張リズムという問題を正しく扱えば、それは可能にちがいない」とヨガは考えます。筋肉の緊張を最適に保つおもな要素は次の四つです。

  • 1安定した心と身体。
  • 2生活環境が健康的な状態にあること「とくに栄養と睡眠に関して。」
  • 3自由で自然な動きを多くすること。
  • 4正しい姿勢習慣を維持すること。

現代というめまぐるしい機械時代の労働環境にあっては、これらは何ひとつ促進されません。混雑した部屋やホールで、デスクやコンピューターの前で、長時間すわって仕事をすることが、適切な筋肉の緊張に適しているはずはありませんし、経済的ストレスや毎日の社会的政治的な刺激も筋肉の緊張には大いに関与しています。
たしかに、元気よく歩いたり、ゲームをしたり、体操をするなどの戸外での運動やレクリエーションは、運動不足を補うのにかなり役立つでしょう。しかし、そのような運動は、「適切な筋肉堺雅なくる」という問題に対して、明確な目的をもって系統的に取り組んでいるとはいえません縮運動も結抗筋の相反性神展を生じ、その結果、伸展反射はいやおうなく活発になり
身ないやおうなく活発になります。しかもこうした収縮運動は合理的かつ目的のある方法では行なわれず、手足など身体の末端の動きのほうが多くて、胴体の動きはただ二次的なものにすぎません。「大きな筋肉の活動」がおもになるのです。脊椎の深部の小さな伸筋は集まってかなり大きな筋肉組織を形成していますが、これらの運動で系統的に動くことはめったにありません。また、ある年齢を過ぎると、健康と柔軟性は手足の深部の筋肉より脊椎深部の筋肉の緊張に影響されます。
以上の点から、脊椎深部の筋肉に働きかける一般的なアーサナは、系統的で重要な行法です。脊椎は筋肉要素と連結している鎖のようなものなので、背中の各部位は系統的にストレッチやねじりをする必要があります。同様のことは腹壁のさまざまな筋肉についてもいえます。手足の緊張よりも胴体の緊張が強調されるのは、このようなはっきりした理由があるからです。手足の筋肉もまた、複数たは単独で、一定の重量に耐え、抗重力のストレスに対してバランスをとるので、筋肉の緊張を最適に保ちます。このように、アーサナは美しいウェストラインを作り、身体のすべての臓器の調子を調えていきます。
もちろん、その効果は現在たいていのジムで行なわれているボディビルディングによって得られるものほど顕著ではありません。しかし、大きな盛り上がった筋肉が必ずしも健康とスタミナのしるしではない、ということは今日の科学界ではよく知られています。この科学的な機械化の時代に、そのような並はずれた筋肉をもっていてもあまり役には立ちませんし、
そのうえ、そうした筋肉は年をとるごとに寄生虫のように作用しはじめ、身体をやしなうエネルギーや栄養をむしばみ、心臓や脳など生命に必須の臓器を徐々に消耗させるのです。といっても私たちは、ボディビルのような筋肉を発達させる運動を頭から否定するつもりはありません。
ここでちょっと注意しておくことがあります。アーサナを行なうとき、熱心なあまり、模範例のとおりにしようと自分の身体の固さを考慮に入れず、限度ぎりぎりまで筋を伸ばしたり、完成した姿勢がはやくできるよう、誰かに手伝ってもらって無理やりポーズを作ろうとする人がいますが、そういうことはやめてください。それは手助けにならないばかりか、危険です。アーサナを体操として行なうことで、私たちはさまざまな反射を徐々に訓練しているのです。無理に行なっても何にも役には立たず、ただ捻挫や繊維組織の裂傷の原因となるだけでしょう。自分の年齢や体調をじゅうぶん考慮して、根性や競争心で行なわないようにしてください。
アーサナは、必ずしも身体の動く範囲が大きければ大きいほど運動面で役立つわけではありません。その効果は身体の筋肉の状態にかかわっているのです。身体を動かす範囲が小さくても緊張過度の人にとってはじゅうぶんな運動になるでしょうし、一方身体を最大限の範囲で動かしても低緊張の人にはじゅうぶんではないかもしれません。しかし、両者ともアーサナの練習を規則正しく続ければ、長い目で見ると徐々に身体の緊張のバランスを取り戻していくでしょう。身体を動かす範囲の限界は、タ持ちのよい痛みをほんの少し感じる程度で、それ以上は行なわないようにしてください。
以上、アーサナの特別な効果を述べてきましたが、一種類のアーサナやムドラーだけで病気が完全に治ることはありません。これらはみな、複合的な治療の一部分です。複合的な治療の一部分です。
ヨガは病気を、局部的なものとしてではなく身体全体の重大な変化ととらえているのです。
アーサナを始めるのは青年期以後がベストです。バランスのポーズのいくつかは、子供用に処方することもできますが、無理して曲げたりストレッチする運動はあまり役に立ちません。ムドラーは、子供の場合、ぜったいに禁忌です。