ヨガの胃の洗浄について

ヨガにおける胃の浄化法とは?

ヨガには胃を洗浄したり健康を回復する方法がたくさんあります。おもな方法は次の通りです。

ダンダ・ドーティ 管を用いて骨を洗浄する。
ヴァストラ・ドーティ 長い包帯状の目の細かい布で胃を洗浄し胃壁をマッサージする。
ヴァマナ・ドーティ 吐き気をもよおさせて故意に吐く。
ガジャカラニーまたはクンジャラ・クリヤー 胃の内容物を故意に吐き出す。
これらの行法は胃の疾患だけでなく慢性気管支炎や喘息などの呼吸器系の疾患にも用いられます。胃の洗浄による刺激が反射的に呼吸器系の分泌物を溶解し、痰を吐きやすくするからです。また、呼吸器の疾患では多くの場合、身体全体の粘液の分泌が増す傾向があり、そのような患者の大部分は粘液状の分泌物を胃から出すことがあることもわかっています。通常の医療では、胃酸過多症に対しては頻繁な胃洗浄を処方しますが、ヨガではそれを低酸症に対して勧めます。というのは低酸症の場合も、胃が余分な粘液を分泌する傾向があるからです。ヴァストラ・ドーティで粘液が取り除かれて胃壁が刺激されると、胃の動きが活発になるでしょう。
胃酸過多症に対しては、ヨガはそれが症状を軽減する場合を除いて、胃洗浄はあまり勧めません。それにかわって症状を鎮静させる方法や、酸分泌を抑えるギー(精製したバター)を入れたミルクなど酸・塩基両様に作用する食物の摂取をアドバ
イスします。

ダンダ・ドーティ

長さ約九十センチメートル、小指ほどの太さのゴム管を用いて行ないます。まずゴム管を殺菌して清潔な密閉容器に入れておきます。以前は長さ約九十センチメートルほどのベンガルボダイジュの気根やバナナの葉の葉脈を用いて行なわれていました。気根を用いる場合は、なめらかに削ってから一晩水に浸して柔らかくしなやかにし、バナナの葉脈を用いる場合は火にあぶってじゅうぶんにしなやかにします。これらは一回使用したら捨て、毎回新しく作ります。これらが手に入らない場合は、同じ長さで手指ほどの太さの柔らかいロープを作ります。これは使うたびごとに清潔にしておきます。最近では、殺菌が可能で長もちするという理由からゴム管が用いられます。行法中にゴムが割れて事故が起きないように、ゴム管を使うときはいつでも、伸ばしてみてひびが入っていたり、くだけていたりしないか注意しましょう。ダンダ・ドーティのやり方は次のとおりです。まず初めに温かい生理食塩水をできるだけ大量に(約二リットル)飲みほします。次に手をよく洗い、ゴム管の先端を喉にうまく入れ、ときどきぐっと飲み込むようにして喉の奥のほうへゆっくり押し込んでいきます。
最初の数日は少しむかつくような感じがあるかもしれませんが、日ごとに感じなくなるでしょう。しばらくすると喉が慣れてきて、なんの「不快」も感じることなくゴム管を入れられるようになるでしょう。初めに吐き気があっても中断しないようにします。吐き気を防ぐもっともよい方法は、大きく開けた口から息を吐き出すことです。吐き気があると最初から水を噴き出してしまうことがありますが、とにかく水が外に出ればいいのですからこれはあまり問題ではありません。しばらくして吐き気がしなくなると、ゴム管が胃に到達した後、水はサイフォンの原理でゴム管をつたって流れ出てきます。ゴム管がよじれたり、またはサイフオンの働きが止まったりして急に水が出なくなったら、ゴム管を上下に動かしてふたたび水が流れ出るようにしてください。完全に水が出なくなったらゴム管を取り出します。この行法は、初めはとても難しく、また恐ろしく思えますが、数日もすればごく容易にできるようになり、子供の遊びのようになります。
ぬるま湯はその温かさのために、すべての分泌物を反射的に溶解させます。ゴム管を食道に入れると、気管壁も刺激され、食道の活動が気管に反射されて胸から炎が出やすくなります。ですからこの行法は胃の洗浄だけでなく、疲を取り除くすぐれた方法でもあります。吐くときの反射は気管壁をリラックスさせて開くので、分泌物が出やすくなります。とくに喘息の場合は、気管壁がけいれんして粘液のかたまりが気道をふさぐため、一方向のひだが形成されますが、呼吸困難を感じたときにすぐにダンダ・ドーティを行なうなら、いまにも起こりそうな発作を避けることができます。こういったことはヨガ療法を受ける喘息の患者によく見られます
(もし胃内容物の粘液がとても濃厚で粘りつくときは、たんなる生理食塩水よりも炭酸水素ナトリウム溶液を使うのがよいでしょう。炭酸水素ナトリウム溶液は粘液を溶解するだけでなく、発生する炭酸ガスが胃壁を刺激し動きを活発にします)。

マヴァストラ・ドーティ

この行法は、細長いなめらかな綿モスリンの布(長さ約五~六メートル、幅約六センチメートル)を用いて行ないます。布は殺菌し密閉容器に入れておきます。
ヴァストラ・ドーティは一般にダンダ・ドーティの後に行ないますが、例外もあります。まず手をよく洗い、事前にダンダ・ドーティを行なっていない場合はよくうがいをして口をすすぎます。次に布の入った容器を開けてぬるま湯を入れ、布を浸し、布の端を人差し指と中指のあいだにはさんで、口を大きく開けて喉の奥に手を入れ、同時に飲み込みます。ダンダ・ドーティのときと同様、たびたび吐き気をもよおすかもしれませんが、これは布の端を甘いミルクに浸しておくことで防ぐことができます。味をよくすることによって喉が受け入れやすく飲み込みやすくなるわけです。それでも吐き気をもよおすようなら、飲み込むのをやめてしばらく静かにしてから、ふたたび挑戦してください。また吐き気をもよおしたら、「ただ静かに」しています。根気よく喉をなだめすかしながら練習するのがコツです。そうすれば、驚くことにわずか数日で喉が慣らされ、スムーズに静かに五~六メートルの布を飲み込めるようになります。布の端は数十センチメートルぐらい口の外に出しておくようにしましょう。この行法は全過程を十五分から二十分間で終えなければなりません。
というのは、それ以上時間をかけると胃の幽門が開いて、布の一部が十二指腸に入ってしまう恐れがあるからです。そうなると布が胃のもう一方の端にはさまって取り出すのが難しくなります。むりに引っぱると布が切したり、組織を傷つけて出血が起こるかもしれません。どれくらいの長さの布を飲み込んでいようと、飲み込んでから約十八分後には布を取り出すようにするのがベストです。取り出すのは容易で、胃の粘膜によってぬるぬるになった布は軽く引っぱるだけでスムーズに出てきます。
胃に到達した布は、周期的に圧縮しねじれる胃壁のリズミカルな動きによってボール状になっていきます。布を入れることがまさに胃壁の刺激剤として作用するわけで、胃壁が布のボールを転がすにつれてボールもいっそう胃壁を刺激します。ボールが胃壁に接触するたびに布の縦糸や横糸の毛細管現象によって胃壁の余分な粘液が吸いとられ、ときによっては拭き取られます。布のひだが交互に圧縮されたりゆるんだりするのも同じような効果をもたらします。最終的に胃壁は余分な粘液の膜が取り除かれてきれいになり、蠕動運動も活発になります。ダンダ・ドーティは胃の内容物にある粘液を取り除くだけですが、ヴァストラ・ドーティは胃壁をマッサージし、余分な粘液の膜を除去します。そのため胃液が正常に分泌されるようになり、正常な端動運動がうながされるのです。
ダンダ・ドーティとヴァストラ・ドーティは消化不良に対して非常に有効です。呼吸器系の疾患の多くや、さらには心臓疾患でさえも、胃の消化不良によって悪化することはよく知られています。
しかし初めに述べたように、ヨガ・セラピーでは一時的に症状を軽減する場合を除いて、普通この二つのドーティを胃酸過多症に対して処方することはありません。それは洗浄のたびに胃腺が刺激されて分泌が促進され、症状をさらに悪化させてしまう危険があるからです。炭酸水素ナトリウム溶液を用いれば、酸分泌はいくらか中和されるものの、発生する炭酸ガスによって粘膜が刺激されて酸分泌をうながしてしまうため、症状はさらに悪化してしまいます。そういうわけで、ヨガ・セラピーでは胃洗浄を過塩酸症や消化性潰瘍の療法として施しません。そのかわり、酸を消費する高タンパクの食事と、酸分泌を抑制する適量の脂肪をとるよう勧めます。ギーを入れたミルクはこの目的にかなうもっともよい食物です。これらの疾患に対するその他の療法は、すべて鎮静させる目的をもったものです。

マヴァマナ・ドーティ

胃洗浄をしたいと思ってもダンダ・ドーティやヴァストラ・ドーティができない人は、この故意に吐く行法を行ないます。まず、温かい生理食塩水をできるだけ大量に飲んだうえで、洗面所へ行きます。少し前かがみになって人差し指と中指を口の中につっこみ、喉をくすぐります。そうすると吐き気をもよおし、飲んだ水が勢いよく吐き出されます。吐き気が止まったらまた指でくすぐって吐き出しましょう。最後の一滴が吐き出されるまでこれを繰り返します。これは胃にむかつきがあったり胸やけする感じがあるときに勧める方法で、症状が軽減されます。
以上の三つの行法を用いた後、最初の数日は喉にヒリヒリするような感じが残るかもしれませんが、しばらくすると消えていくでしょう。この行法は胃酸の分泌が少ない早朝に行なうことをお勧めします。時間がたってから行なうと胃酸の分泌が多くなり、焼けるような痛みや喉のひりひりする感じがひどくなってしまうからです。これらの行法はとくに慢性胃炎に有効であることがわかっています。

ガジャカラニー

ンジャラ・クリヤーともいい、「象の動作」という意味です。象は動物の中で、水を体内にためて意のままに吐き出す能力に秀でているので、この行法にはそれにちなんだ名前がついています。もちろへ象が水をためるのは胃ではなく鼻ですが、それでもやはり人が水を胃にためて意のままに吐き出す行為は、明らかに象の動作をまねたものです。手順は次のとおりです。
ヴァマナ・ドーティを数日から数カ月間練習して(個人の能力によって練習期間は異なります)、喉の括約筋をコントロールできるようにします。口の奥のほうをくすぐらなくても、吐き気をもよおすよう意図しただけで助けるようになったら、あとは簡単です。
水を大量に飲んだら洗面所に立ち、口を開け、声門をいくぶん閉じながら息を吸います(ウジャーイーの呼明)。そのとき「アー」という音を出すようにすると、喉が気管にかける圧力によって横隔膜が大きノ下がり、それにともなって、圧力に抵抗して吸う力が高まります。下がった横隔膜は胃を圧縮し、同時に腹壁の上部をしっかりと収縮させ、あらゆる方向から胃を圧縮します。すると水が噴門、食道をへて勢いよく略へ上がってきます。もしこのとき声門のところにある括約筋を開くことができたら。水は噴水のように吐き出されるでしょう。ゆっくりコントロールしながら息を吐き、しっかりと骨格の上部を圧縮しつづけると、水は勢いよく出てきます。
グジャグラニーは療法として大変有効です。腹腔の上部でかけられる高い圧力は、肝臓や脾臓、膵臓などの内臓に刺激を与え、不活発な肝臓や膵臓のよい運動になります。しかしこのような目的のためであれば、水を飲む必要はありません。「ガジャカラニーに対して、ヴァマナ・ドーティはときに「ヴィヤーグラ・カラニー」すなわち「トラの」としても知られています。北インドの言葉では、ガジャカラニーは「クンジャリ」、ヴァマナ・ドーティは「バード」と呼ばれますが、象やトラが水を吐き出す仕方からすると、これらの名前にとても適切だと思われます。
ガジャカラニー(クンジャリ)では骨にかけられる圧力は安定したまま持続し、声門をしっかりコントロールして開けておくので水は一定の調子で出てきます。吐く動作を間欠的に行なうヴァマナ・ドーティ(ヴィヤーグラ・カラニー、バーギ)の場合は、骨にかかる圧力も定でなく、声門も吐き出される水の勢いによってそのあいだだけ開きます。トラ(あるいはネコやイズ)はそれと同じようにして内容物を吐くので、これらの行法はそれぞれ「象の動作」「トラの動作」と呼ばれているのです。