調気法のやり方について

調気法の手順について説明しましょう。調気法はおもにブーラカ、クンバカ、レーチャカの三過程からなりますが、シューンヤカを加えた四過程から構成される場合もあります。

1プーラカ コントロールされた吸息を意味します。これに対して、コントロールされていない普通の自動的な吸息は「シュヴァーサ」といいます。プーラカは、吸う長さを延ばすことと、吸う力を弱めていくこと(この二つは反比例の関係にある)に気をつけてゆっくりと行ないますが、いくつかの調気法では別の方法で行ないます。たとえばバストリカーの第一段階では、非常にはやく吸ったり吐いたりし、この周期をほぼ半秒で行ないます。
2クンバカーコントロールされた止息を意味します。
3レーチャカー一定の時間と内圧を保つようにコントロールされた呼息を意味します。これに対してプラシュヴァーサという言葉は、通常の自動的な呼息に用いられます。一般にこの過程では、吸息にかける時間の二倍の長さを費やしますが、バストリカーの第一段階のように、はやく吸ったり川いたりしなければならない場合もあります。ーシューンカ息を吐ききったあとの止息を意味します(クンバカはプールナ・クンバカまたはアーピャンダラ・クンバカ、シューンヤカはシューンヤ・クンバカまたはバーヒャ・クンバカと呼ばれることがあります)。

調気法を行なうときに最初に気をつけなければならないのは、骨盤、背中、首の位置です。これらはすべて「直立」の位置に保たれていなければなりません。そうすることによって骨盤の角度は約三十度に保たれます。
骨盤の傾きはの緊張と大きく関係しており、そのために調気法を行じるときは、達人坐、蓮華坐、吉祥坐、対称坐などの特別の坐法が定められているのです。これらの坐法では骨盤は必要な角度に保たれ、ムーラ・バングがしやすくなります。
プーカラ コントロールされた吸息のことです。
やり方は以下のとおりです。

1姿勢を正したら、ゆっくり息を吸いはじめ、鎖骨と胸の上部を上げていくと同時に、骨盤底を徐々
に収縮し引き上げていきます。
2胸の上部を一杯に上げたら、胸の中部を広げ、意識的に肋骨を最大限広げるようします。この過
程のあいだも骨盤底は引き上げておき、非常にゆっくり空気を吸い込みます。
3このあと、意識的に横隔膜を下げます。これによってみぞおち(上胃部)が張ってきます。できるだけ多くの空気を吸い込みます。この間ずっと骨盤底は上がっており、これによりへその下の下腹部は引っ込みます。この下腹部は「ウディヤーナ・ピータ」といいます。もっと引き締められると、いわゆるウディヤーナ・バンダになります。

これらはやさしくリズミカルに行ない、ぎくしゃくとした動きをしないようにしましょう。

クンバカ

コントロールされた止息のことで、息を止めているあいだ以下のことを行ないます。

  • 1下腹部を引っ込ませます。
  • 2骨盤底をできるだけ高く引き上げます。
  • 3顔を咽喉部のくぼみに押しつけます。これによって頸動脈洞が圧迫されます。
  • 4舌を口の奥のほうにすべらせ、舌の根元を喉の壁に押しつけます。これによって首の上部が上方へ強く引き上げられ、頸動脈洞がなおいっそう圧縮されます。

この1から4はそれぞれウディヤーナ・バンダ、ムーラ・バンダ、ジャーランダラ・バンダ、ジフ
ヴァー・バンダといいます。胸が息で満ちている状態でこのような内圧の変化があると、ヨガのテキストに述べられているように、全身の「毛胞部分で」わずかにうずくような感じがします。すなわち、毛細血管が拡張し、その拍動の容量が増加することによってとくに手足の指が「血液で満たされる」のです。この感覚が得られるまで息を止めておくことが望まれます。
「毛髪やツメの先に気がこもるまで保息し、それから、ゆっくりと左の脈管を通して気を吐くべし」ジャーランダラ・バンダの目的とは近代生理学では、頸動脈洞は呼吸や心拍数、循環系の圧力を調整近谷郡だということがわかっており、圧迫された頸動脈洞は過度の血圧上昇が起こらないように動きます。しかし、息がすばやく止められ、このように内圧が高い状態にあるときは、過度の血圧上昇が予想されるので、頸動脈洞を適切に圧迫しないと、心拍数は異常に増加し、血圧も上昇してしまいます。
頸動脈洞を含む頸動脈は、ヨガの文献では「ヴィジュニャーナ・ナーティ」と呼ばれ、「経験する」ための意識や力を維持するのに役立つ脈管、を意味します。これは、carotid(頸動脈)が「皆迷を引き起こすもの」という意味をもっているのと比べて、非常に興味深いと思います。頸動脈が長時間強く圧迫されると、昏迷が引き起こされます。しかしふだんは、内頸動脈を介して必要な量の血液が脳に送られることによって意識は保たれています。このことから、頸動脈は「昏迷を引き起こすもの」ではなく「意識を保つもの」であるといえます。脳は機能するために多量の酸素とグルコースを必要とし、これらが頸動脈を介して供給されることはよく知られています。そういったことから考えてもヨガの用語の正しさはいっそう明らかだと思われます。さらに、古代のヨガ行者は頸動脈洞のもうひとつの生理学的効果についても知っていたようです。というのは、彼らは息を止めているあいだ、血圧と脈拍を調整するのに頸動脈洞を賢明に利用していたからです。また彼らはヨガ・セラピーにおいて、高血圧患者の治療のために「ヴィジュナーナ・ナーディ・マルダナ」と呼ばれる頸動脈洞のマッサージを処方したり、
また、頸動脈洞を強く圧迫しているあいだに呼吸すること(ムールチャー調気法)で外界を忘れる状態をもたらすようなこともしていました。このように、ジャーランダラ・バンダは首の「ひきつれ」によって息を止めやすくしているだけでなく、古代のヨガ行者が理解していたように、明確な生理学的目的をもっているのです。
調気法の時間配分]このように強く圧迫されているとき、息はできるだけ心地よく長く保持されなければなりません。理想的な時間配分は、修行者各自が心地よくできる範囲内で、呼気の長さを吸気の長さの二倍にすることだと考えられています。これには、自分の能力を超えた呼吸を行なってデリケートな呼吸中枢のメカニズムを損なわないように、との配慮があります。こうすることで修行者は、次第に高くなる二酸化炭素の分圧に徐々に慣れて、耐えられるようになり、最終的には自動的な受容器を自分の意志でコントロールすることが可能になって、呼吸系の圧受容器、とりわけ仲震反射をうながすことができるようになります。これによって、自動的な呼吸の停止がもたらされます。胞の伸展反射がじゅうぶんに刺激されたときには、固有受容性の効果によって呼吸の停止が延長される、ということがバラック博士によって発見されています。それこそ調気法がめざしているものだと考えられます。種々の「バンダ」による肺内部の圧力の上昇はこの呼吸の停止をもたらします。なぜそのような呼吸の停止が必要なのか?それについては、ふたたびパタンジャリのスートラを用いて、調気法のより高度な神経生理学の見地について述べる際に考察していきます。調気法の各過程にかける時間の長さは、すべての教えに共通しているわけではありません。
しかし、たいていは一対四対二の比率を教えています。すなわち、吸息にかける時間を基準にして、止息に倍の時間、呼息に二倍の時間を費やすのです。しかし、どの過程においても心地よく行なわれなければなりません。一ラウンドの呼吸のあいだだけでなく調気法を行なっている最中はずっと、どの過程においても「はやく息を吸い込みたい」という焦りを感じてはいけないのです。いずれかの過程で息苦しさや空気を渇望するような気持ちをおぼえたら、ただちに吸息の時間を適切なところまで短縮し、その過程を前に述べたような比率に応じて縮めましょう。呼吸のメカニズムは大変デリケートなものなので、その調整のために延髄の中には呼吸中枢というきわめて敏感で壊れやすい「バランスを保つ機構」があるのです。そのバランスをむやみに変えると悲劇的な結果を招くことになります。いつ何時心身の破綻が起きないともかぎらないのです。一対四対二の比率はきついので、一対一対一から徐々に一対四対二にしていくことを唱える人もいます。「ゴーラクシャー・サンヒター」は、初心者にとっては安全で楽な六対八対五の比率を示しています。これらの比率は、心の中で数を数えたり、数珠を用いたり、マントラ(真言)を唱えたり、また時計を用いて実践すれば、容易に自分のものにできるでしょう。
レーチャカは前記のように心地よい方法で止息したあと、第三の過程であるレーチャルコントロールされた呼息が始まります。この過程も段階を追って、なめらかにリズミカルに行ないます。
1顎の押しつけをゆるめ、頭を上げます。腹部を徐々に引き締め、引っ込めます。同時に、腹腔内の圧力が増加することによって横隔膜が押し上げられます(ここまでは横隔膜は圧力に抵抗して、
ました)。みぞおちは徐々にへこんでいきます。
2次に、肋骨が収縮しはじめ、胸の底部がせばまっていきます。
3最後に、上がっていた胸壁がゆっくりと下がり、これ以上吐ききれないところまで息を吐きつブけます。4この過程の始めから終わりまで骨盤底は高く保持されたままで、腹部は引っ込んでいます。腹筋がゆるみ、そのために横隔膜が上がって腹壁がゆるんでいると、突然腹部がくぼむことがあります。下腹部が引きしめられたままだと、へその下数インチのところがくっきりとへこみます(柔軟な人の場合)。これがレーチャカでのウディヤーナ・バンダです。この過程は「シューンヤカ」クンバカまたは「シューンヤ」クンバカといいますが、この過程を二、三秒保ったあと、骨盤底をゆるめます。