ヨガによる身体の強化訓練
アーサナは「身体訓練」であるともいわれます。アーサナはほんとうに身体訓練なのか、また身体訓練であるとしたら、いったいそれはどのような種類のものなのかを考えてみる必要があるでしょう。しかし、まずは身体訓練とはそもそも何なのかを明らかにしたほうがいいと思います。一般に「身体訓練」と聞いて心に浮かぶのは、ウォーキングやランニングや、球技のようなレクリエーション的なものではなく、身体の外側の筋肉を順次鍛えていく「筋肉体操」のようなものでしょう。このような肉体は普通、ダンベルやバーベルなどを用いて段階的な抵抗を作り、それに対するかたちで行なわれます。現在、こうした「筋肉体操」はほとんどの体育において普及してあり力をつけるだけでなく健康にもよい理想的な肉体トレーニングとして受け入れられています。強靭な筋肉と骨格が体力をつけて強靭な肉体を作ると考えられています。
しかし運動選手や曲芸師が「力持ち」の多くが何らかの急性疾患や慢性疾患を患っている、ということは知っておくべきでしょう。その他に、古代の武具を用いて機敏な運きを専門的に鍛える体育があります。これよ女走性や機敏さを培うだけでなく、自由で「自然な」動きが調和のとれた骨格筋の発達をうながし、安定した健康を保証するものであるといわれています。マラ・カンバ(地面に立てた木製の柱)、カレラ(木製のバット状のもの)などを用いたインドの伝統的な体操には、このような動きが見られます。これらの体操には力づくの無理な動きも少なく、リズミカルで全身的な運動になっています。
生理学的に有益とされる運動のなかで筋肉を規則正しく合理的に使うことは、もちろん健康に役立つことでしょう。しかし、局部的な影響しか与えないような筋肉運動では、こうした結果は得られません。健康のためには、筋肉の働きは生理学的にも衛生学的にも正しいものでなくてはなりません。すなわち、そのような筋肉の運動は、たんなる筋肉の鍛錬や機敏さや技術のためというよりも、全身の機能を促進させるために考えられた、よく調和したリズミカルな動きで構成されているべきなのです。このように生理学的に健全で体系的な体操は、正式には「健康体操」とよばれており、普通の体操や激しい運動とはまったく別のものです。一般人にとって必要なのは、この「健康体操」なのです。スポーツや運動の分野で活躍したいと思っている人にとっても、この体操はスタミナと効率全般に恩恵をもたらし、目的を達成するために必ず役に立つことでしょう。次頁に示すのは、今日はやっているさまざまなタイプの運動の大まかな分類です。この分類は、必ずこうでなければならないというものではありません。
複数のカテゴリーにまたがるような運動も数多くあることでしょう。たとえば、速度の運動は第一に速さを目的としますがかなりの強さと俊敏性も必要とします。同じように敏捷性の運動も、おもに目などの感覚器官や、いく
つかの筋肉群を同時にこまかく瞬間的に動かすトレーニングに集中しますが、やはり相当の強さと
をとらないます。この分類は、あくまでその運動の中心的な目的をもとにしたものです。「耐久運動」というのは、動作をゆっくりとリズミカルに頻繁に繰り返す運動で、かなり長期にわたって行ない、筋力よりもスタミナの増進を目的にしています。ほとんどの健康体操はこの耐久運動から成っていますが、それはじゅうぶんな科学的研究の結果、あらゆる点において健康に役立つようにという目的をもって編み出されたものです。
以上述べてきたことから見ると、アーサナは「健康体操」といってもさしつかえないでしょう。しかし耐久運動を前記のように定義するのなら、アーサナは「耐久運動」には分類されません。なぜなら、アーサナは意味の上でも実際においても「姿勢」を意味するからです。効果的にするために姿勢」を長時間維持する点では、アーサナにも耐久力が必要ですが、耐久運動のように動作を頻繁に繰り返すことはほとんどありません。では、たんに姿勢を維持するだけのこうした体操を健康に役立つものといえるでしょうか。このことを理解するためには、姿勢のメカニズムと身体への影響について、深く検討してみる必要があるでしょう。