ヨガの鼻と喉の洗浄について

鼻の浄化法

鼻は呼吸器系の最初の門で、耳や手足の指のように身体の末端でもあります。前章でも述べたように、身体を外界の温度変化などに適応させるために、血管は拡張・収縮を繰り返しており、これはとくに身体の末端部分で顕著に見られる現象です。
しかし、このメカニズムに狂いが生じて、末端で血管が拡張し、身体の中央に近い小動脈や小静脈が収縮したりすると、うっ血が起こり、血管拡張・収縮の自然なサイクルは乱れてしまいます。この現象は心身症でよく起こり、この時点から悪循環が始まるのです。空気中につねに存在しているウイルスは、鼻のうっ血した粘膜をよい住みかとして繁殖します。当然のことながら、粘膜はそれによっていっそう刺激に敏感になり、くしゃみや鼻水が出たりしますが、これは有害なウイルスなどを追い払う最初の自然な反応です。しかし、これは刺激が一時的で、なおかつ刺激物が取り除かれた場合にだけ所期の目的を達したといえるもので、うっ血が長く続いた場合はこの自然なプロセスはうまくいかなくなり、悪循環が続いていわゆる「慢性鼻炎」へと発展していきます。
血管運動のサイクルに影響をおよぼす因子は、気温、浸透圧の変化、湿度、空気中のほこりや微粒子です。ほこりや微粒子は粘膜を刺激するだけでなく、粘膜をすりむき、表面を傷つけます。そうした刺激やうっ血状態が、粘膜に炎症反応を起こしやすくするおもな原因となるのです。このような種々の因子に対して鼻粘膜を順応させ、慢性鼻炎へと発展するのを予防する合理的な方法があります。ヨガで、「ネーティ」「カパーラバーティ」と呼ばれている行法がそれです。
最近、これらの用語の使い方が混乱しているようですが、伝統的なテキストによると、正しくは「ネーティ」という語は、粘膜を丈夫にし、ほこりや微粒子の摩擦効果に耐えられるようにする行法を指すときだけに用いられるもので、また、「カパーラバーティ」という語は、粘膜を水や力強い空気の流れで洗浄するときに用いられてきました。しかし、現在ではカパーラバーティは空気で洗浄する行法を指し、ネーティは鼻の粘膜を水で洗浄したり、摩擦してマッサージする行法を意味します。
それにともなって最近では、

1ジャラ・ネーティ鼻を水で洗浄する
2スートラ・ネーティ摩擦でマッサージすることにより粘膜を丈夫にし、ほこりなどの環境に対して慣れさせる
3カパーラバーティ鼻腔を空気で洗浄する

というように言い分けられるようになってきました。伝統的なテキストによれば、これらはそれぞれ、ジャラ・カパーラバーティ、ネーティ、ヴァータ・カパーラバーティにあたるものです。

マジャラ・ネーティ(ジャラ・カパーラバーティ)

鼻を水で洗う伝統的な方法は次のとおりです。

1リヴィウットクラマ・カパーラバーティー
手のくぼみに水を取り、鼻先に触れるように上くちび
るの上にもっていきます。口の中の奥と下顎を引き下げます。こうすると鼻の床が傾き、水を吸い込んだとき水は鼻の床を流れるだけで、上方の嗅覚神経末端を刺激しません。鼻から水を入れ、口に吸い込んで吐き出します。これを二、三回繰り返します。これを行なうときは頭を少し前に傾けるとよいでしょう。
2シートクラマ・カパーラバーティ
一、二回うがいをして口の中をきれいにします。口いっぱいに水を含んで口の中の奥と下顎を引き下げます。
次に少し前かがみになり、鼻から息を吹いて同時に喉音を出すときにするように舌の付け根を上顎の後部に触れさせ、口の後部にある水を押し出します。そうすると水は鼻の床をつたって流れ出ます。
以上の二つは伝統的なジャラ・カパーラバーティですが、次に今日行なわれている簡単なジャラ・ネーティの方法を紹介しましょう。
の初心者はポット(水差し)を使って鼻を洗うことをお勧めします。細長い口がついている水差し、あるいは急須を選ぶとよいでしょう。頭を横に傾けてわずかに下へ向けます。
ポットの口を上側の鼻孔に差し込み、水を入れ、口を開け、口から息を吐きます。そうすると水は反側の鼻孔を流れ、また口のほうにも流れて出てきます。同様に反対側も行ないましょう。
これらの行法で使う水には塩を溶かしますが、濃さは高浸透圧から低浸透圧のものまで使うことができますし、温度も温かい(耐えられる熱さ)ものから冷たいものまで使うことができます。
しかし、初めはめるい生理食塩水を使います。それから、徐々に耐えられる範囲で水の温度を上げ、濃度を高めて高浸透圧に変えていくのです。そのあとふたたび水の温度を下げ、濃度も低くして低浸透圧にもどしていきます。そうすると最終的には鼻の粘膜を刺激することなく常温の水を使うことができるようになります。
こうした手順をふむのは、これらの行法を通じて鼻を洗浄するだけでなく外気の温度や浸透圧のさまざまな変化にも慣れさせようとの考えがあるからで、このように訓練された鼻は自然に血管リズムを気候の不良に合わせることができるようになるでしょう。

スートラ・ネーティ(ネーティ)

伝統的な方法では、約四十五センチメートルの長さの一束の綿の糸の三分の一をよじって熱い蜜ろうにし、さまして、固くしなやかにしたひもを用いていました。これが「スートラ・ネーティ」(またはネーディ)で、このひもで鼻孔の粘膜を摩擦しマッサージすることをネーティ・クリヤ、または単にーティといいます。ひもの残り三分の二は長い糸のふさになっています。
その手順を紹介しておくと、まず口の奥と下顎を下げて、固いろうがついたひもの先端を片方の鼻すごバいぞって入れていきます。先端が喉の奥に触れたら口を開け、人差し指と中指(親指と人差し指を使う人もいます)を口のずっと奥、喉が開いているところに突っ込んで、ひもの先端をつかんで引き出します。
ひもの固い部分が喉から出たら、鼻の外に出ている「ネーティ」のふさの端をもう一方の手でつかんで、ひもを前後に動かします。十回から十五回摩闢て、反対側の鼻孔も同じように摩擦します。これは鼻の粘膜を「丈夫にする」あらっぽい方法で、粘膜を傷つける埃などの粒子の摩擦に耐えられるようにするものです。しかしそれもゴムが出現する前の方法で、今日ではひものかわりにさまざまなサイズの尿道カテーテルを用いることができるようになりました。そのサイズは一般に四~六号が適しており、これは殺菌消毒し、きれいに洗浄しておくことができます。この行法によって鼻の粘膜が丈夫になり、埃の粒子などによる刺激に順応できるようになります。

ヴァータ・クラマ・カパーラバーティ(カパーラバーティ)

この行法では息を鼻から繰り返し早く吐き出します。このとき、ふだん鼻をかむときのようにしてはいけません。鼻をかむことは、慢性鼻炎の合併症、たとえば副鼻腔炎、鼻中隔異常などの原因になるのではないかと考えられており、それによって悪循環におちいるからです。
粘膜が炎症を起こしてうっ血しているときに鼻を押さえると、鼻水などの分泌物が出るのを防ぐことはできますが、両鼻を押さえられている力で分泌物はさまざまな洞へ押し流されてしまい、洗浄しにくいところにまで発症が広がってしまいます。また、息を吐くときにうっ血した鼻孔内に高い圧力があると、鼻中隔が反対側へ押しやられ、そのようなことが何度も繰り返されると鼻中隔の異常が促進されてしまうのです。
*『ゲーランダ・サンヒター』では、調気法のうちで二つの鼻孔から交互に呼吸する行法のことカパーラバーティと呼んでいます。この調気法にかぎって止息はありません。ここに取り上げるカパーラバーティは、インド全国で伝統的に受け入れられているものです。
カパーラバーティでは鼻孔を大きく開いておきます。この行法の前にネーティで鼻の中の汚れを取り除いておきましょう。そうしておいて、まず腹部の下からまん中の部分を引きしめて力強く息を吐きます。このとき、肛門も自動的に収縮し引き上げられますが、意識的に骨盤底を収縮させて引き上けるようにするとなおよいでしょう。そうすれば息をいっそう強く吐き出すことができるからです。そのあとすぐに腹部の筋肉をゆるめると空気は自動的に肺に入ってきます。それからすぐ二回目の呼吸を続け、一秒間に二回のスピードでできるだけリズミカルに一度に十回から二十回の呼吸を繰り返します。この間、胸を広げることによって圧力が上のほうにかからないように、できるだけ胸を動かこないようにしましょう。腹部を引き締めるたびに胸を引き上げて広げてしまいカナナ
締めるたびに胸を引き上げて広げてしまいがちだからです。そうなると、横隔膜が押し上げられるかわりに、その両側が引き上がって平らになってしまううえ、広がった胸の圧力があらゆる方向に拡散してその効果が消えてしまいます。
一方、腹部が引きしまっているときに胸が広がらないようにすると、横隔膜のまん中の部分だけが押し上げられ、息を吐く力が体軸方向にかかり、鼻孔を通る息の流れはいっそう強くなります。
カパーラバーティの目的は、非常に力強い空気が鼻孔を流れることによって、渦が広がるだけでなく外鼻孔の小さな溝すべてに吸引力がかかり、それによってそこによどんでいる物質が発散して取り除か
れることだと考えられます。カパーラバーティという言葉が、輝かせる、つまり「頭蓋」(カパーラ)をきれいにするということを意味しているのも、そんなところからです。一般的にカパーラという言葉は前頭部をあらわします。ですから、カパーラバーティは、うっ血したり感染しやすい部位である洞や鼻腔などを含む前頭部を輝かせる、つまり浄化する行法であるといえます。
ジャラ・ネーティとカパーラバーティのあいだに長いウディヤーナを二、三回行なうとよいでしょう。カパーラバーティでは鼻孔から鼻水や分泌物がほんのわずかしか出ませんが、ウディヤーナ・バンダを行なうと、それによって生じる大気圧以下の圧力のおかげで、鼻腔の割れめに残っている水タが引き出され、洞に与える効果は増すでしょう。

喉の浄化法

アーユルヴェーグでは、喉は「サプタパタ」といわれ、これは「七つの道に通じる広場」という意味です。この七つの道とは、二つの鼻孔、中耳へつながる二つの耳管、食道、気管、そして口です。「へ開く扉は扁桃によって守られています。扁桃は二つの柱のあいだに立っている二人の衛兵のようなもので、その扁桃の根元は十字に交差したいくつかの筋肉の密集した層でできています。この筋肉は口を開けたり食べ物をかむときに使われ、扁桃に血液を供給する小動脈や血液を送り返す小静脈は、この密集した筋肉層を通っています。残念なことに、柔らかく調理されたものを食べる習慣のついた現代人は、めったに固いものをかみ砕くことがありません。扁桃が感染して、とくにそれが少し長引くと、炎症が扁桃の根元に広がってしまいます。炎症を起こした筋肉は小動脈や小静脈を圧迫するため、扁桃がもっとも必要としているときにじゅうぶんな血液が供給されないという事態を引き起こしてしまいます。さらに感染が慢性的になると筋肉層の繊維は癒着し、いっそう悪化してしまいます。このため、血液を供給されることによって生きのびていた扁桃の小動脈や小静脈は圧縮され、組織の抵抗力が落ちて敗血症になることさえあります。こうなったらまったく大変です。なぜなら扁桃は呼吸器系と食道の入口を守る兵隊なのですみ。慢性的な感染症は隣接する組織に広がり慢性咽頭炎を引き起こします。そうすると今度いよに悪影響がおよぼされ、いわゆるカタル性の聴覚障害や頭部の雑音をもたらします見障害や頭部の雑音をもたらします。
繊維の癒着は耳管をふさぎ、空気の通りを悪くしてしまいます。空気の通りは両側の中耳と外耳のあいだにある鼓膜に等しい圧力をかけるのになくてはならないもので、普通、飲み込むごとに空気が通り、両側の鼓膜に圧力が等しくかけられ、音の振動を感じるように保たれています。この両側の鼓膜にかけられる圧力の機構が阻害される
とカタル性の聴覚障害を引き起こし、さらに感染が耳管を通って中耳にいたると、やっかいなことになります。出口を見つけられない膜が、その圧力で鼓膜を破り、慢性的な耳だれ(耳漏)という状態になるわけです。
以上、慢性扁桃炎や咽頭炎、その合併症について述べました。この記述からもわかるように、これらの病気を予防するもっともよい方法は、喉の筋肉の運動によって扁桃に血液をじゅうぶんに供給することです。ヨガではジフヴァー・バンダとシンハ・ムドラーという行法を用いて予防します。

マジフヴァー・バンダ(舌のバンダ)

舌を上顎に押しつけます。といっても舌を丸めるのではなく、舌の付け根から先端まで全体を口の奥から上顎全体に押しつけるようにします。とくに舌の付け根は注意して口中の奥の筋肉に押しつけてください。初めは反射的に一、二回せきが出るかもしれませんが、やがては出なくなります。舌をうしろへ少し引くと舌の先端が歯槽のへりに触れます。それから、口をできるだけ大きく開けます。
そうすると舌小帯が大きく引っぱられます。しかし、これはこの行法の肝心な部分ではありません。肝心なのは喉の表面や首の上方部分までもが引っぱられていると感じることです。こういう点から、ジフヴァー・バンダはしばしばジャーランダラ・バンダの代わりに用いられるほど重要です。調気法でジフヴァー・バンダをするとき、口は開けません。実際、口を開けないでもジフヴァー・バンダは可能です。バンダを完全なものにするには、舌の付け根を上顎の奥にしっかり押しつけることです。こうして、喉のうしろの壁、上顎の奥、舌の付け根の三つの部分がしっかりと合わさることによってバンダは完全なものとなります。このようにすると、喉の筋肉のほとんどすべてが活動します。

シンハ・ムドラー(ライオンのシンボル)

口を大きく開けて舌の先端が下顎の先に届くぐらいできるだけ長く出し、同時に眉間を見つめます。一般にシンハムドラーはライオンのポーズをするときに行ないます。ひざまづいて足首を交差し、かかとを会陰の下においてしゃがみます。舌を出すとき、ひざの上においた両手は指を広げ、身体全体も緊張させます。シンハ・ムドラーは普通ジャーラングラ・バング、すなわちのどのバンダとともに行います。
シンハ・ムドラーはライオンのポーズの一部ではありますが、前記のように喉の体操として別々に行なってもよいでしょう。「シンハ・ムドラーをすると、それがいかに喉の筋肉にとってよい運動になるのか実感できると思います。このように、ジフヴァー・バングとシンハ・ムドラーは喉の筋肉の運動になるだけでなく、繊維の癒着の予防にも役立つことでしょう。一般に、慢性扁桃腺炎には生理食塩水でうがいをするのも効果的です。うがいをする前に、1ハリータキー(アーユルヴェーダに用いられる薬草)の粉末「トリパラー(ハリータキー・ヒビータキー・アーマラキーの三つの果実)の粉末ならなおよい]、ウコンの粉末、岩塩、の三つを同量ずつハチミツに混ぜ、ペースト状にして扁桃をマッサージしてください。このペーストを使って扁桃の下のほうから上のほうにマッサージしていくと、口から分泌液がしたたってきます(ウコンはよい消炎剤です。岩塩は高い浸透圧をもたらすので扁桃から吸引します。ハリータキーの粉末は収斂性があり、ハチミツは殺菌作用があります。ですから、このペーストは扁桃をマッサージするのにとてもよい配合になっています)。
それから温かいお湯でうがいをしますが、これは扁桃をよく洗浄するとともに熱を与える役割ももっています。この後にジフヴァー・バンダとシンハ・ムドラーを行なうとよいでしょう。一回の練習で、ジフヴァー・バンダとシンハ・ムドラーは二、三秒ずつ交互に行ないましょう。初めはそれぞれ1回ずつ、次の段階では、一週ごとに一回ずつ増やして六回ずつ行ない、これを通常の回数とします。それらは首の筋肉を強くする次の行法とともに行なうと一層効果が高まります。

マブラフマ・ムドラー

ブラフマ・ムドラーは、ヒンドゥーの三大神のうちの四つの頭をもつブラフマーを象徴しているので、そう呼ばれます。この行法では頭部を前後左右に動かします。「まず、ひざに手を置いた蓮華座の状態から、頭をうしろにできるだけ倒して、喉を伸ばしていきます。鼻先を見つめ歯を強くかみ、頭はリラックスさせて二、三秒保ちます。次にゆっくりと頭部を前に曲げていき、顎を胸につけます。眉間を見つめ、歯をかんで頭をリラックスさせながら二、三秋保ちます。頭を起こし、できるだけ肩の上に顎がくるように頭を右にねじっていきます。このとき頭を下げないようにしましょう。できるだけ右のうしろのほうを見るようにして、そのまま二、三秒保ちます。次にゆっくりと頭を正面にもどし、同様に左にねじっていきましょう。顎を左肩の上にもってきたらできるだけ左後方を見るようにして二、三秒保ち、正面に向きなおります。
以上がブラフマ・ムドラーの一ラウンドです。最初は三回行なえばじゅうぶんで、それから一週ごとに一回ずつ増やして六回までにしていきます。これが通常行なう回数です。
ブラフマ・ムドラーは首の筋肉を強化するだけでなく、頭部への血液の循環をよくし、うっ血を緩和します。
以上のネーティ、カパーラバーティ、ジフヴァー・バンダ、シンハ・ムドラー、ブラフマ・ムドラーは、耳、鼻、喉の慢性疾患に対するすぐれた治療法です。