現代医学が近づいたヨガの心と病気に関するアプローチ

ヨガ・セラピーでは、正しい心の姿勢を培うことが大変重要だと考えます。日常のものごと、またとりわけ人生に対する心がまえは、心身症や代謝病などの慢性疾患のみならず感染症の発病にも、直接的・間接的に重要な関係をもっているからです。ここでは、こうした議論の根拠と、ヨガがいかに心の姿勢を変革していくのかについて述べていくことにしましょう。

現代医学のアプローチ

ヨガは、人間は相互に関連のない数多くの部分から構成されているのではなく、ひとつの統一体であると考えて、病気に対しても総合的にアプローチしていきます。

すなわち、人間はもっと広大な全体、つまり宇宙の完全な一部であるという考えに立つのです。現代医学はこの点について理解していないわけではないのですが、実際の治療となると、どういうわけか病気の特異性を見ることだけにきをとられるようです。

たとえば肺炎の場合、現代医学ではたいてい肺炎を身体全体の病気ではなく肺特有の病気とみなし、おもに肺に対して直接治療をします。ある細菌が肺を攻撃した結果、肺局部に病が生じ、身体がそれに反応しているのだというわけです。

そして、いったん肺が攻撃から解放されると身体の反応は自動的に止まり、患者は「治った」と感じるのだと考えます。現代医学はこの「治癒過程」がどの生物にもあてはまると主張しています。

ですから、医学のなすべきことは、ただ特定の攻撃から人間を守り、攻撃因子を破壊したり無効にしたりすることになるのです。これは合理的といえるでしよう。このアプローチによって医学は大きな進歩を遂げ、人類に「安心」をもたらしました。

しかし、正常な組織に害をおよぼすことなく攻撃因子のみを破壊したり無効にするような「理想的な」薬品や方法は、これまでのところ科学では発見されていません。ですから病気が治癒したのはいいけれども、抵抗力や免疫性がかなり弱まってしまい、やがて衰弱や障害をきたす場合さえあるのも不思議ではないのです。

身体はおおぜいの家族や使用人がいる大きな家のようなものです。彼らは外部からの攻撃に反撃し、それを避ける能力をもっていますが、みずからの力を上回るような相手にされたときには警察官に助けを求め、神経過敏な状態におちいってしまいます。

しかしその警察官は、害をもたらす「敵」と一家の「味方」の区別ができないので無差別に発砲し、敵味方双方の幾人かを殺してしまいます。結果として、警察官が去ったあとはまったく「静か」な状態になりますが、同時に家はかなりの損傷を被り、防衛力を失った状態になってしまいます。

もちろん現代医学は、この「副作用」を無差別的でない制御可能なものにしようと努力しており、その試みはある程度は成功しています。しかし、「理想的ではない」薬が未だ多いのも事実です。

一方、その家(身体)はしばしば、なんらかの欠乏や非能率性、あるいは不調和のために、内的管理が行き届かなくなり、混乱状態におちいってしまう場合があります。機能障害はたいていこうしたことから生じるのです。

欠乏症に対しては、現代医学では補充療法が用いられます。補充療法では、身体の必要としている物質の不足分を補い(最近ではこの補充物質はたいてい合成品です)、同時に特別な食御療法を処方します。

しかし、食物などの摂取だけでは臓器の効果的な働きや臓器間の協調作用をもたらすことはできません。食餌療法に加えて、直接的・間接的に臓器をもう一度訓練し、身体の他のさまざまな部分とのあいだに適切な協調作用や調和をはかれば、臓器は正常に機能するようになるでしょう。

この療法は物理療法学独特の分野として認められていますが、残念なことに、物理療法は連動障害などの整形外科的問題で手いっぱいなのです。

胃潰瘍、気管支喘息、心身症にも分類される病気が数多くあります。これらの病気には身体の機能的障害の要素以外に、心理的な要素が大いにかかわっていて、それらが相互に影響しあっていることがわかってきました。

このように現代医学にも、多くの病気で心が重要な役割をはたしていることを受け入れてきています。しかしヨガはずっと以前からそのことに気づいていました。心は、心身症だけでなく、あらゆる病気においても大変重要な役割をはたしている、というのがヨガの考えです。

心がかき乱されると、身体の抵抗力が全般的に弱まり、外界の細菌に襲われやすくなります。そして、臓器間の協調がそこなわれ、その結果、身体自体の働きが低下するのです。

病気の過程の捉え方

ヨガでは病気にいたるこの過程を次のように説明しています。「苦悩、憂うつ、身体の震え、呼吸の乱れなどが心の散動状態にともなって起こる」(『ヨガ・スートラ』)。心身のいかなる障害も、また、とりわけ否定的で破壊的な感情も苦悩や憂うつをもたらし、そして筋肉や血管の収縮リズムを乱して、「身体の震え」や「呼吸の乱れ」を引き起こします。

ヨガによると、筋肉や血管の収縮リズムの乱れは、病気にいたる心身の連鎖的な反応を開始する引き金になります。呼吸のリズムの乱れさえも、この筋肉や血管リズムの乱れが原因となっているのです。

この過程を生理学的に見ていきましょう。

筋肉の緊張が突然高まると、要求される筋肉の緊張を維持するために、循環系、呼吸系、糖代謝などの代謝系の負担が大きくなります。その上、感情的な状態で全身の血管が収縮すると、決まった血管の抵抗に逆らって機能しなければならない心臓や肺にいちだんと重い負担がかかります。

この要求に応えるために、自律神経系も内分泌系も異常な状態におかれ、副腎ー交感神経の働きが亢進します。この状態が長く続くと、甲状腺も刺激され、作用がいっそう充進します。

さらに、それは骨格筋だけでなく全身へと影響をおよぼします。腸、心臓、肺、気管支、仙堂内臓を形成するさまざまな収縮性の組織も影響を受け、内臓の働きは大きく阻害されます。そして「姿勢反応系」(posturalsubstrate)がまったく変化するのです。

このような状態が長期間続き(すなわち慢性症状となり)、緊張が低下して組織が不活発になった場合は、うっ血または停滞が起き、また緊張が高まった場合は、異常な消耗が引き起こされます。こうなると、全身の体液に作用する腺分泌の障害が起こって、身体は容易に外界の細菌によるさまざまな感染症にかかりやすくなり、また各種の慢性的な機能代謝障害が引き起こされます。

こうしたことから、ヨガは「身体の震え」を病気の前兆とみなし、適切に取り組んでいきます。病気の根本に迫る場合、この「身体の震え」という根本的かつ主要な因子を正常な状態にもどすとともに、予防するためにも最善の努力を払うのです。

現代医学はかつて、臓器、組織、細胞という用語を用いて、病気の経過について考えてきました。これについて、ワイス博士とイングリッシュ博士は次のように述べています。「十九世紀より伝えられてきた病気に関する見解は次の公式で示される。《細胞の病気―構造の変化―生理的(または機能)障害》。二十世紀になると、この公式は一部変化した。たとえば、本態性高血圧(既往の腎疾患または原因なく起こる高血圧)や血管の病気の場合は、〈機能障害、細胞の病気―構造の変化)となる」。

両博士はさらに次のように述べています。「例証したように、本態性高血圧や血管の病気の原因となる機能障害の前段階が何であるか、私たちはいまだに解明できていない。おそらく、将来、研究が進むと、機能障害の起こる前には心理的な障害があるといえるようになるかもしれない。そのとき公式は次のようになるであろう。《心理的障害―機能障害、細胞の病気―構造の変化》」。

このように、現代医学は、古来のヨガと同じ考えを示す傾向にあります。現代医学のごく最近の傾向としては、気を個々の臓器、組織、細胞の病理の点から見るというより、むしろ全身から病気ぐ病態内に品識するようになりました。

最近では、個々の臓器、組織、細胞は、全身の体液をともなってついに変化する生化学的および生物物理学的な反応における、たんなる結節点にすぎないと考えられています。

また、このような変化がうまくいかなくなるときに心がどのような役割をはたすのかが、より注目されてきています。

一方、物理療法学の出現によって、治療としての運動に大きな価値があることが理解されはじめました。さらに最近の研究では、神経の緊張性インパルスが協調して作用するとき」、それは神経、筋肉のメカニズムだけでなく、実際には全身の機能効率の維持という重要な役割をはたすことが立証されています。「ヨガの提唱する方法が、このような現代医学の発見とほぼ一致しているのは興味深いことです。